「だれもが安心して暮らせる大分県条例」をつくる会 ニュースレター「わたしも あなたも」 第8号(全8面) 2012年12月13日発行 連絡先 住所 大分市都町2丁目7−4 303号 在宅障害者支援ネットワーク 電話・FAX 097−513−2313 メール info@daremoga-oita.net ホームページ http://www.daremoga-oita.net 第1面 見出し だれもが安心して暮らせる大分県条例(骨格案)前文 本文  この条例は、障がいがある人とその家族の声と思いや願いに基づいて制定される。 障がいの有無に関わらず誰もがかけがえのない人間として尊重され、地域社会において、ごく普通のあたりまえの生活が保障されなければならない。 生まれた子どもに障がいがあっても祝福され、地域の子ども達と一緒に遊び、ともに教育を受け、学校卒業後も就労、あるいは活動の場、社会参加が保障される。成人して親元を離れた暮らしを望む場合それが容易に出来、恋愛、結婚、妊娠、子育て、または趣味を楽しむなど豊かな人生を自らの意思で選択が出来るべきである。  今、世界では「障がい」のとらえ方が大きく変わった。それに伴いわが国の障害者基本法も改正された。しかし、地域の現実はまだ変わっていない。 障がいがある人の生きづらさは深刻だ。 「医療費がかかりすぎたり、障がいを理解して対応できる病院が少なく安心して治療が受けられない」。障がいがある夫婦が妊娠した時、まわりから「おめでとう」と祝福されず「自分の事も一人で出来ないのに、自分で育てられない子を産んだらいけない」と親になる事も許されない。「働かないものは死ね」などの存在価値を否定される扱いを受けたり、精神や内部障がいなど外見では分からないため理解されない苦悩。「自立、自立、頑張れ」と激励されるが何をどう頑張ればいいか分からない、あるいは限界があり家に閉じこもりがちになる。「恋愛をしたいが禁止される」、「施設や親元を離れて暮らしがしたいが反対される」等、人としての夢や希望も、障がいがあるが故にあきらめさせられる事が多くある。 障がいがある子どものいる家族も、地域社会のあらゆる場面で「親のしつけが悪い」「親の育て方が悪いから」と言われ、障がいを理由に子どもの入園、入学、診療拒否があり途方に暮れる。親戚からは「うちの家系にはこんな子はいない」と言われて、障がいがある子を産んだことを自分の責任であるかのように思い込まされ、生きづらさを家族だけで背負い込まされ、「この子を残して死ねない」、「この子のきょうだいは結婚できるだろうか」、「願わくは、私より先に死んでと思ったことがある」と家族の苦悩や親亡き後の不安の声が数多く聞かれる。 こうした社会の無理解や差別、偏見を受け続け、自己嫌悪に苦しみ傷つけられ、誰にも知られずにひっそりと暮らす人がたくさんいる。 一方で、障がいがある人が地域の人の理解や社会的な支援を受けながら、ともに生きる社会の一員として地域の中で暮らし、社会に貢献する動きが少しずつ広がるなど明るい希望もある。  一人ひとりの存在価値が尊重され、誰でも「必要な社会の助けを借りて自分らしく生きていく」という事が当たり前のこととされ、障がいがあろうとなかろうと、ともに生きていく理解と支援を惜しまない社会を皆で築くことが切に求められる。 この条例は、県民みんなで「だれもが安心して暮らせる大分県」をつくっていくための出発点となるべきものである。 以上 第2面  県条例をつくる会は2011年6月に発足し、1年かけて当事者やご家族の声を集めました。寄せられた一つひとつの声を、いよいよ「条例」という“かたち”にする作業がはじまりました。骨格案は大きく「差別の禁止・虐待の禁止」「権利擁護」「社会参加支援・生活環境」「医療・保健」「教育・保育・療育」「性・恋愛・結婚・妊娠・出産」「日常生活支援」「就労」「防災」「地域福祉」から成ります。県の責務、県民の責務、財政上の措置についても明確に示しました。ニュースレターでは、今号よりこの骨格案の詳細を紹介していきます。  まずは「前文」です。条例づくりに携わる人たちに前文に対する思いを聴いてみました。 見出し  前文は条例のいのち コ田靖之 前文というのは、法律や条例を制定するにあたって、特に必要があると認められる場合に、その法律や条例の目的や趣旨を鮮明にするために設けられるものです。 最も有名なものは、日本国憲法の前文です。世界に例のない戦争放棄を定めた9条を制定した趣旨を不戦の誓いとして高らかに宣言したものです。 その意味で、前文は、その法津や条例にとって最も大切なもの、つまり「いのち」とも言うべきものということになります。 このたびまとめられた条例骨格案の前文は、このような考え方に基づいて作成されました。読んでいただければおわかりのとおり、前文には、他県の条例には全くみられない特徴があります。 この条例作りに参加して下さった障がいがある方やご家族の生の声を可能な限りストレートに反映しているということです。 この条例作りには、1200名を超えるアンケート回答や100名を超える方々からの直接の聴き取りによって、深刻な差別や生き辛さの実態が明らかになりました。 同時に、明るい展望やこのような社会であってほしいとの願いも沢山寄せられました。 私たちのこのような訴えが、実を結ぶような条例であってほしいとの声に正面から答えたいという思いからまとめられたのがこの前文です。皆様からの率直なご意見をお待ちしています。 カット 原野彰子さんの絵手紙2枚(1,紫色の花の絵に「ありがとうたくさんの出会いに感謝」の文字 2,ビワの絵に「風邪の予防にビタミンC]の文字) 第3面 カット 原野彰子さんの絵手紙1枚(一面真っ赤なポインセチア) 見出し  前文に込めた想い 宮西君代 本文  「なに!これ?、これが条例なの?」と思われた方も多いかと思います。既に制定された他県を参考にしないで、大分県独自の条例づくりを目指して、みんなで論議を何度も何度も積み重ね作り上げました。  できる限り皆さんから寄せられたアンケートや聞き取りでの生の声を活かした前文にしたいという想いではじめたのですが、やはりまとめざるをえなくなりました。  この条例の前文では、私たち障がいがある人もない人もみんな「当たり前の暮らし」ができる社会になるべきだと宣言しました。  特に、全国初の、これまでタブー視されて来た「性」の問題を取り上げ、性教育や恋愛、結婚、出産、子育てについて条例に盛り込む事ができたことは画期的ではないかと思います。  ふだん、何気なく使っている言葉も取り方によっては傷つけたり、違った捉え方になる事を、この作業をしながらいろいろ気づかせて頂きました。未熟な私も皆さんと議論をたくさん交わせたことはとても有意義でした。ようやくここまで来ましたが、この条例の前文は賛否両論あると思います。皆様からの意見を頂ければうれしいです。 見出し  家族の想いを前文に託して 安部綾子 本文  子どもに障がいがあるとわかった時、親がまず一番に思うことは「何で、どうして、うちの子が」という不安と悲しみです。支えてほしい身内からの差別や無理解、何度も世間から拒まれ、社会の偏見の中で充分な知識や情報を得ることができない戸惑いと不安を抱えながら、すべてが自分の責任であるように思い、子どもを抱え込み、人に依存もせず、支援も受けず、自己嫌悪に苦しみ傷つけられ、誰にも知られずにひっそりと暮らす人がたくさんいることを知ってほしいと思います。  差別は受けたものでなければわかりません。重度の障がいがある子のお母さんが「うちの子は、思いが通じない時、うれしくて興奮した時など奇声を発します。動物園に連れて行ったとき、みんなからジロジロ見られ、とても悲しい思いをしました」と、特別視された辛さを涙を浮かべて話されました。子を思う母親の愛の深さを痛感しました。  情愛の深さは尊いものですが、子どもが大きくなるにつれ、親は老いていきます。情愛だけでは届かないものが見えてきます。親亡き後の不安、誰もが心配している問題です。  障がいを抱える家族だからといって、人一倍頑張らなくても暮らしていける社会になるようにと希望された母親もいます。  障がい者がともにいる社会を制度的に支えることが差別禁止法・条例だと聞いています。「だれもが安心して暮らせる大分県」になることを願っています。 第4面 見出し  前文に対する思い 久恒美保 本文 現在、宇佐市で「相談支援専門員」という仕事をしています。日々、障害のある方々と顔を合わせ、ご本人が望む生活の実現に向けてのお手伝いの一部を、相談支援という形で担っています。  先月、出会って約2年経つ療育手帳を持っている60代の男性Aさんから「久恒さんは、わしのことを知的障害があるAと思って話をしよるやろ?」と尋ねられました。私はAさんに「知的障害」というフィルターを通して接していたつもりは一切なかったので、「そんなことはありません。私は○○町に住むAさん、福祉サービスというAさんが必要とするサービス利用しながら地域の中で生活しているAさんだと思って話をしていますよ。」と答えました。この答えにAさんが納得したかどうかは、確認してはいませんが、その後も笑顔で会話を交わしました。  この質問から私は、「これまでのAさんが暮らしてきた地域社会が、このような質問をせざるをえない状況を生み出したのではないか」という思いを抱く一方で、「私自身がAさんに対してそのような質問をぶつけられるような態度をとっていたのかもしれない」という不安な思いも抱きました。  人はつい、経験したことや学んだことから「分かったつもり」に陥ることがあるのではないでしょうか。「分かったつもり」が相手を傷付けたり、差別していることにつながってはいないでしょうか。そして、人から「分かったつもり」を指摘された時、素直にそれを認め、次につなげられるような振り返りをしているでしょうか。  私は、Aさんの問いかけを通して、差別する心は社会にあるのではなく、自分の心の中にあるのではないかと改めて強く感じました。そして一人ひとりがそう自覚することが、『だれもが安心して暮らせる大分県』につながっていくのではないのでしょうか。 今回の魂が込められた条例前文は、アンケートによって届いた生の声から、「県民一人ひとりの存在価値が尊重される社会を、県民みんなでつくっていこう。」という県民全体に対しての決意表明であると同時に、私自身への決意表明でもあると思っています。私はこの前文を持って、より多くの方々と出会い、語り合い、つながっていきながら主体的に行動し、『だれもが安心して暮らせる大分県』を目指していきたいと思います。 カット 原野彰子さんの絵手紙2枚(1,どんぐりの絵に「寒くなったね。ブローチにしたいほど可愛いよ」の文字 2,カブ大根の絵「大好きな漬け物にしよっ」の文字) 呼びかけ あなたの声、お寄せください! 前文への感想、こんな条例に−あなたの声が条例案を完成させます。ぜひ事務局までお寄せください。 第5面 大見出し 地域をつなぐ県条例 前文  県条例は地域を住みやすくするためのもの。でも、実際に地域を住みやすくするのは条例の文章ではなく、私たち一人ひとりです。条例に込められた思いを受けとめ、その心をかたちにしていく作業は、私たちの日々の動き。そんな動きを、ちょっとだけ追ってみました。 見出し 支援で就労可能。本人・家族自ら動く。“きょうだい”に目を…県北“火曜会”で 本文 11月26日、宇佐市のありくの里で約20名が参加。「うーん」と考え込む意見が続出でした。 ●就労支援事業に2年半取り組んで、今60人が働いている。最低賃金を出しており、最近ハローワークに2人の求人を出したら次々に応募があり驚いた。不況でクビを切られたのか、身体障がいの人も多かった。親元から離れて暮らす人も増え、10人近くが市営住宅などで暮らすようになった。 ●前文の「思い込まされ」は、本人・家族自身が立ち向かっていくという主体的な思いが入らない。 ●主体的に判断するためには本人・家族への重圧を取り除くことが先。条例の役割はそこにある。 ●障がいがある子のきょうだいに目を向けもっと理解することが必要。 ●何十年も入院していたが、自由がない。運動を理由に廊下をゴロゴロさせられたこともある。 ●入院していると病棟から外に出られない。全く自由がない。 ●一人ひとりが生きていく力を持っているが、それを受け入れられない窮屈な仕組みがある。皆と知り合って、受け入れられて成長し、そこでまたぶつかりながらも成長していける支援が必要。 見出し 西森桃弥さんの思い、忘れません!! 本文  条例づくりのための聴き取りにご協力いただいた西森桃弥さんが亡くなられました。25歳の早すぎる死。 12月1日の葬儀には川野陽子さんをはじめ条例をつくる会からも4人が参加し、感謝の気持ちを伝えるとともに、「お母さん思いでやさしく賢い桃弥君」(入院していた西別府病院の仲間からの弔辞)を悼みました。実は、次号の本音トークに登場していただく予定だった桃弥さん。彼が残した言葉―「地域の学校に行きたかったがバリアのため行けなかった」、「家族以外の人とも一緒に外出したい」、そして「親亡き後のことは考えたことはない。親より自分が先に死ぬと思っている」…。決して忘れてはならない言葉だと思います。 見出し 日田・玖珠とバリアフリー交流 本文  日田・玖珠地域で条例づくりのアンケートに協力していただいた「くりえいたす」(相談支援担当者のネットワーク)のメンバー15名が大分市のバリアフリーを“チェック”、そして条例をつくる会メンバーとも交流しました。11月26日、JR大分駅に集合。県条例をつくる会から共同代表の宮西君代さんら9人が合流しました。大分駅のトイレから商店街、Q-usカフェ、そして大分銀行本店前の社会実験中の交差点を見て回り、コンパルホールで交流会。条例の前文などを読んで、意見交換しました。 行事案内 だれもが安心して暮らせる大分県条例をつくる会 臨時総会のご案内 2013年3月2日(日)13時30分 大分市 大分県総合社会福祉会館 4階 “私たちの条例案”を決めるための大切な総会です。ぜひご参加ください。 案内 「県条例骨格案」をお送りします。ご希望の方は事務局までご連絡ください。☆ホームページからもダウンロードできます☆ 連絡先・アドレスは1面参照 第6〜7面 見出し 「本音トーク」 前文  今回の本音トークは、佐伯市で活躍するお二人の対談です。  生活、教育、制度、平成25年2月3日(日)に開催する「 福祉フォーラムinけんなん」にかける想いなどを語ってもらいました。 写真 語り合う吉田真知子さんと疋田秀美さん 紹介 ・吉田真知子さん(51歳) 脳性まひおよび頸椎症性脊髄症  佐伯市上浦町出身。趣味は音楽鑑賞とパソコン。ELTと南こうせつをこよなく愛する。 ・疋田秀美さん(58歳)佐伯市障がい者相談支援センター相談支援専門員 大分市出身。趣味は食べることと読書とスポーツ観戦。トリニータJ1昇格に歓喜する。 本文 疋田 真知子さんは24年前に自分たちで作業所を開設し、14年前に法人化した、素晴らしい行動力の持ち主なんですよ。歩けなくなったのは8年くらい前でしたっけ? 吉田 はい、平成16年の3月、転びそうになったのでしゃがんだら突然、首から下の感覚がなくなりました。しばらくしたら動けるようになって、病院に行きましたが「元々の障がいのせいかも。心配ない」と言われて…。でも3カ月後、もう一度病院に行ったら、すぐに別の病院に送られて9か月入院。その間に首と腰の手術を計4回受けました。 疋田 それまではアパートの2階で一人暮ら しをしていたから、退院後、ケアホームに入所したんですよね。佐伯は身体障がい者向けがなかったから、高齢者向けのケアホームに。 吉田 そう、段差がきつくて、手の力も弱くなったので、一人暮らしは無理かな、と思って。でも、自由に外出ができなかったり、プライバシーが守られなかったりと、困ることばかりでした。だからもう一度、一人暮らしをすると決めました。 疋田 でも、車いすだと、昇降機を取り付け たり、介助の問題があったり、クリアしなければならないことがたくさんありますよね。いい物件が見つかってよかったですね。 吉田 はい。やっぱり一人暮らしは楽で楽しい。近所のコンビニエンスストアも、私専用の小さいカゴを用意してくれたり、困っていたら声をかけてくれたりと、気遣ってくれます。今は1日3回、ヘルパーさんに来てもらっていますが、歳をとってくるとだんだん、トイレを我慢するのが大変になってきました。 疋田 佐伯は24時間訪問介護を受けにくいですもんね。そのために、やりたいことを諦めなければならない障がい者もたくさんいると思います。真知子さんがこれからやりたいことは何ですか? 吉田 もっと自由に動きたいですね。タクシー代などを考えると、思い切って外出できません。佐伯市の障がい者相談支援センターも不便な場所に移転してしまい、なかなか行けなくなりました。自由に使える自動車があればいいなと思います。 疋田 私を含め、運転する人はたくさんいますからね。何とかして自動車を手に入れましょう! いつも前向きな真知子さんの原動力って何ですか? 吉田 ありがとうございます。私は、障がいがあってもなくてもみんな同じ人間、対等だと思っています。だから、いろんな人と接して、分かりあいたい。そして、志が同じなら一緒に実現していきたい。自分たちが動かないと何も変わらないと思っています。 疋田 私たちがそういう想いで続けているの が、「福祉フォーラム」ですよね。 吉田 今回は、発達障がいをテーマに開催します。理解を深める講演とシンポジウム、相談会も開きますので、たくさんの人たちに来てもらいたいと思います。 疋田 私は今、仕事で発達障がいの子どもたちの相談支援を担当しています。そこで強く願うのは、学校の先生たちが今より10%だけでも、子どもの学校外の生活にまで気を巡らせてくれたら、ということ。日常的に障がいと付き合っているその子たちにとって、学校はどの位置なのか、今後どんな段階を踏んでいけば学びやすいのか、ライフステージのつながりを大切にしてほしいと思います。 吉田 学校では、一人ひとりを見据え、個性を尊重した教育をしてもらいたい。教育界全体の意識改革が必要ですよね。 疋田 それから、行政の担当者の姿勢も大切。せっかく要望を出しても、「お金がない」「規則だから」と突っぱねられると悲しくなります。障がい者の目線に立ち、難しい問題でも当事者や支援者と一緒に面白がりながら、解決策や実現策を探ってくれる人が増えたらいいなと思います。そして、当事者やご家族が胸を張ってサービスを使える世の中にしたい。障がいに定年はありませんからね。 (聞き手:大戸佳子) 行事紹介  県内で各種集会が予定されています。 見識を広めにでかけてみてはいかがでしょうか?  ●福祉フォーラムinけんなん   佐伯会場 平成25年2月3日(日) 正午開場〜15時 以降個別相談会 [和楽]   津久見会場 本年度中に開催予定  ●別府市条例についてのタウンミーティング 1月中を予定  ●ともに生きる宇佐市民集会 2月23日(土)9:30〜12:30 [さんさん館]  ●精神障がいについてみんなで考えるフォーラム 杵築:2月 国東:7月 開催予定 第8面 連載 言わせちょくれ G 「孫の足も愛し!」  大分市 元記者 小川 彰  「トーフィー トウフいらんかえ トーフィー(後のフィーは、高音でのばす)」。大分市近郊の団地に住み、団地に隣接するタタミ五十枚ほどの畑をお借りして家庭菜園を楽しんでいるが時折、豆腐屋さんの“声”が聞こえてくる。  子どもの頃に聞いていたのは、おばちゃんの肉声だったが、今はライトバンから流れてくる男の声で録音テープ。団地住民は高齢化し、周辺には高齢者向け施設も並ぶ。つい懐かしい“声”に引かれ、耳を澄ませていることだろう。  別府市で生まれ育った筆者には、懐かしい“声”が他にも。もちろん肉声。「ニッポンイチのおキビちゃん(キビ団子) ホエッホエッ」。さらに名物は「サオはいらんかえー サオはー」の渋い声。おいちゃんが物干し竿をかついだり、リヤカーに積んだり。その声はラジオから流れてくる浪花節のようだった。  しかし家庭菜園をやっていても癒やされてばかりではない。爆音に思わず空を見上げると、上空には戦闘機、低空にはヘリコプターの姿。米軍機か自衛隊機かは定かではないが、夏頃から一段と飛行回数が多くなった感。“慣れ”は怖い。さらに慣らされは危険だ。  その何倍、否、何十倍もの轟音と危険にさらされている沖縄。欠陥機とも指摘される垂直離着陸輸送機オスプレイも既に十二機が普天間飛行場に配備され、市街地の真上を低空飛行している。  その沖縄では九月九日、十万人もの県民らが集まり、「オスプレイNO」と激しい怒りをぶつける。だが数日後、二人の米兵が若い女性をレイプ。さらに…。沖縄は依然として米国の“占領地”なのか?  沖縄には基地経済に頼らざるを得ない悲しい現実もあるが、そろそろ限界に近付きつつある。米軍基地の国内分散ではなく、縮小を強く願う。本土防衛のため犠牲となった沖縄を“よそ事”と考えてはいないか。自戒すべきだ。  米国は、ハワイ州の二空港で計画していたオスプレイの着陸訓練を撤回した。それは空港周辺の歴史的遺産に与える悪影響や騒音被害に対する猛反発を州民から受けたためだ。  これに対し日本政府は、「オスプレイの安全性は問題性なし」とする米国防総省の見解を丸のみ。それどころか有力政治家から「オスプレイ(一機百億円超)を自衛隊に導入すべきだ」とか、「自衛隊に上陸作戦を担う海兵隊の機能を持たせよ」などといった発言も飛び出す。尖閣などの領土問題を意識した強硬論であろう。  米国は十一月中(時期は明示されてない)にもオスプレイの低空飛行訓練などを開始する方針を政府に伝えた。しかし、日米地位協定などで、米側には訓練計画を事前に通告する義務はない。ただ大分の上空を含む本土の六ルートで飛行すると明示。日本は、米国の「属国扱い」なのだろうか?  「平和憲法の下、自衛隊は専守防衛に徹し、集団的自衛権の行使は認めない」。これが国是であろう。特に六十歳以下の“戦争を知らない世代”に伝えたい。決して愚かな戦争を繰り返してはならない。もって肝に銘ずべし。  戦争(限定的な武力衝突も含む)は、多くの人命を奪い、人を醜い行為に駆り立てる。権力や利権に群がろうとする「政・財・官」の言動には厳しい目を。「しょせん、そんなもんだ。仕方ないよ」と諦めてしまうのは、日本の将来を危うくする。  畑を耕しながら見上げた戦闘機やヘリコプターの姿。今にして思えば、オスプレイ飛行に向けた地形調査だったのか。それとも…。  二つになったばかりの孫娘。空を見上げながら「ヘリコプターしゃん、こんにちは」とニッコリ。諦めてはダメだ。子や孫、その次の次の世代のためにも!   (十一月末出稿) 写真 正座した子どもの後ろ姿−裸足の足をきれいにそろえている。「「孫の手」はかわい 「孫の足」もまた愛し!」と説明文 以上