「だれもが安心して暮らせる大分県条例」案 だれもが安心して暮らせる大分県条例をつくる会作成 2014年1月 構成 ・前文 第1章 総則 第1条 目的 第2条 定義 第3条 理念規定 第4条 県の責務 第5条 県民の責務 第6条 財政上の措置 第7条 差別の禁止・虐待の禁止 第2章 実体規定 第8条 相互理解 第9条 社会参加支援・生活環境 第10条 日常生活支援 第11条 医療・保健 第12条 教育・保育 第13条 療育 第14条 性・恋愛・結婚・妊娠・出産・子育て 第15条 就労 第16条 地域福祉 第17条 更生への支援 第18条 防災 第3章 問題解決・推進手段 第19条 障害がある人の権利委員会 第20条 地域相談員制度 第21条 障がい者権利保障推進会議 前 文  この条例は、障がいがある人とその家族の声と思いや願いに基づいて制定される。 障がいの有無に関わらずだれもがかけがえのない人間として尊重され、地域社会において、ごく普通のあたりまえの生活が保障されなければならない。 生まれた子どもに障がいがあっても祝福され、地域の子ども達と一緒に遊び、ともに教育を受け、学校卒業後も就労、あるいは活動の場、社会参加が保障される。成人して親元を離れた暮らしを望む場合それが容易にでき、恋愛、結婚、妊娠、子育て、または趣味を楽しむなど自らの人生を自らの意思で選択できるべきである。  今、世界では「障がい」のとらえ方が大きく変わった。それに伴いわが国の障害者基本法も改正された。しかし、地域の現実はまだ変わっていない。 障がいがある人の生きづらさは深刻だ。 「医療費がかかりすぎたり、障がいを理解して対応できる病院が少なく安心して治療が受けられない」。障がいがある夫婦が妊娠した時、まわりから「おめでとう」と祝福されず「自分の事も一人でできないのに、自分で育てられない子を産んだらいけない」と親になることも許されない。「働かないものは死ね」などの存在価値を否定される扱いを受けたり、精神や内部障がいなど外見では分からないため理解されない苦悩。「自立、自立、頑張れ」と激励されるが何をどう頑張ればいいか分からない、あるいは限界があり家に閉じこもりがちになる。「恋愛をしたいが禁止される」、「施設や親元を離れて暮らしがしたいが反対される」等、人としての夢や希望も、障がいがあるが故にあきらめさせられることが多くある。 障がいがある子どものいる家族も、地域社会のあらゆる場面で「親のしつけが悪い」「親の育て方が悪いから」と言われ、障がいを理由に子どもの入園、入学を断られたり、病気になった時の診療さえ拒否されて途方に暮れる。親戚からは「うちの家系にはこんな子はいない」と言われて、障がいがある子を産んだことを自分の責任であるかのように思い込んでしまったり、生きづらさを家族だけで背負い込まされ、「この子を残して死ねない」、「この子のきょうだいは結婚できるだろうか」、「願わくは、私より先に死んでと思ったことがある」と家族の苦悩や親亡き後の不安の声が数多く聞かれる。 こうした社会の無理解や差別、偏見を受け続け、自己嫌悪に苦しみ傷つけられ、誰にも知られずにひっそりと暮らす人がたくさんいる。  一方で、障がいがある人が地域の人の理解や社会的な支援を受けながら、地域の中で暮らし、ともに生きる社会の一員として、社会に貢献する動きが少しずつ広がるなど明るい希望もある。  一人ひとりの存在価値が尊重され、だれでも「必要な社会の助けを借りて自分らしく生きていく」ということが当たり前のこととされ、障がいがあろうとなかろうと、ともに生きていく理解と支援を惜しまない社会を皆で築くことが切に求められる。 この条例は、県民みんなで「だれもが安心して暮らせる大分県」をつくっていくための出発点となるべきものである。  第1章 総則 第1条 目的 この条例は、障がいがある人もない人も、だれもが、生を受けたことを喜び、だれからも一人の人間として尊重され、地域社会の一員として、ともに生きる社会を作っていく貴重な役割を担っていることが当然のこととして受け入れられる大分県づくりを推進するにあたって、その基本理念を定めるとともに、県、市町村、県民のそれぞれが果たすべき責務を明らかにすることによって、障がいがある人に対する理解を広げ、差別をなくす取り組みを進め、障がいがある人もない人もともに暮らしやすい社会の実現を図ることを目的とする。 第2条 定義 (1) 障がいの定義  身体障がい、知的障がい、精神障がい、発達障がい、内部障がい、性に関する障がい、その他の心身の機能の障がいや疾病などにより、継続的に日常生活や社会参加を行うにあたって、社会的な制度の整備や支援等を必要としている状態のことをいう。  本条例では、障がいをこのように定義する考え方を「社会モデル」という。 (2) 差別の定義  差別とは、次の各号に掲げる行為(以下、「不利益取り扱い」という)をすることおよび障がいがある人が障がいのない人と実質的に同等の日常生活や社会参加を行うために必要な合理的配慮に基づく措置(以下、「合理的配慮に基づく措置」という)をおこなわないことをいう。 一 福祉サービスを提供し、または利用させる場合において、障がいがある人に対して行う次に掲げる行為。 イ 障がいを理由として、福祉サービスの利用に関する適切な相談および支援が行われることなく、本人の意思に反して、入所施設における生活を強いること。 ロ 本人の生命または身体の保護のためにやむを得ない必要がある場合その他の合理的理由なく、障がいを理由として、福祉サービスの提供を拒否し、もしくは制限し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 二 医療を提供し、または受けさせる場合において、障がいがある人に対して行う次に掲げる行為 イ 本人の生命または身体の保護のためにやむを得ない必要がある場合その他の合理的理由なく、障がいを理由として、医療の提供を拒否し、もしくは制限し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 ロ 法令に特別の定めがある場合を除き、障がいを理由として、本人が希望しない長期間の入院その他の医療を受けることを強い、または隔離すること。 三 商品またはサービスを提供する場合において、障がいがある人に対して、商品やサービスの本質を著しく損なうこととなる場合そのたの合理的な理由なく、障がいを理由として、商品またはサービスの提供を拒否し、もしくは制限し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 四 労働者を雇用する場合において、障がいがある人に対して行う次に掲げる行為 イ 労働者の募集又は採用にあたって、本人が業務の本質的な部分を遂行することが不可能である場合その他の合理的理由なく、障がいを理由として、応募もしくは採用を拒否し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 ロ 賃金、労働時間その他の労働条件または配置、昇進、教育訓練もしくは福利厚生において、本人が業務の本質的な部分を遂行することが不可能である場合その他の合理的理由なく、障がいを理由として、不利益な取り扱いをすること。 ハ 本人が業務の本質的な部分を遂行することが不可能である場合その他の合理的理由なく、障がいを理由として、解雇し、または退職を強いること。 五 教育を行い、または受けさせる場合において、障がいがある人に対し、次に掲げる行為 イ 本人に必要と認められる適切な指導および支援を受ける機会を与えないこと。 ロ 本人もしくは保護者の意見を聴かないで、または必要な説明を行わないで、入学する学校を決定すること。 六 障がいがある人が建物その他の施設または公共交通機関を利用する場合において、障がいがある人に対して行う次に掲げる行為 イ 建物の本質的な構造上やむを得ない場合その他の合理的理由なく、障がいを理由として、不特定かつ多数の利用に供されている建物その他の施設の利用を拒否し、もしくは制限し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 ロ 本人の生命または身体の保護のためにやむを得ない必要がある場合その他の合理的理由なく、障がいを理由として、公共交通機関の利用を拒否し、もしくは制限し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 七 不動産の取引を行う場合において、障がいがある人または障がいがある人と同居する者に対して、障がいを理由として、不動産の売却、賃貸、転貸または賃借権の譲渡を拒否し、もしくは制限し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 八 情報を提供し、または情報の提供を受ける場合において、障がいがある人に対して行う次に掲げる行為 イ 障がいがある人に対して情報の提供するときに、障がいを理由として、これを拒否し、もしくは制限し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 ロ 障がいを理由として、障がいがある人が情報を提供するときに、これを拒否し、もしくは制限し、またはこれに条件を課し、その他不利益な取り扱いをすること。 九 その他、日常生活における場面や社会参加のあらゆる機会において、障がいがある人に対し、障がいを理由として不利益な取り扱いをすることおよび合理的配慮に基づく措置を行わないこと。 (3) 虐待の定義  障がいがある人に対して、暴行、暴言、侮辱、嫌がらせ、無視、放置、財産の侵奪、わいせつ行為、性的な無配慮等を行うことおよびこれらの行為をさせることをいう。 (4) 自立の定義  日常生活または社会参加を行うにあたって自らの人生を自らの意思で選択することをいう。なお、そのために第三者による支援を求めることは当然の権利である。 (5) 療育の定義  身体の障がい、知的発達や行動に課題を抱えている児童に対し、適切な医療を提供するとともに、保育、教育、生活指導等を行うことによって発達を促し適応可能性を出来るだけ伸ばすことをいう。 (6) 事業者の定義  大分県内において事業活動を行うすべての者をいう。 第3条 理念規定 (1)すべての障がいがある人は、障がいを理由として差別を受けず、自らが選んだ地域において生活し、地域社会を構成するかけがいのない一員として、社会、経済、文化その他のあらゆる分野の活動に参加する権利を有する。 (2)障がいがある人に対する差別をなくす取り組みは、差別の多くが、障がいがある人に対する誤解、偏見、その他の理解の不足や障がいがあることに対して必要とされる合理的配慮を欠くことから生じていることを踏まえて、障がいについての「社会モデル」を普及することを通じて推進されなければならない。 (3) 障がいがある人に対する差別をなくし、障がいがある人の自立および社会参加を推進する取り組みは、すべての大分県民にとって、暮らしやすい地域づくりにつながるとの認識のもとに、多くの県民が自らの役割を自覚したうえで参加することが必要であり、そのうえで、県、市町村、並びに障がいがある人に対する福祉、医療、保健、教育、就労等に関係する機関(以下、「関係機関」という)が相互に連携し、障がいがある人の意思を尊重することにより行われるべきである。 (4) 障がいがある人やその家族が、自らが選んだ地域において、安心して暮らしていくことを可能にするためには、障がいがある人の保護者等が死亡あるいは高齢化した後の問題(以下、「親なき後の問題」という)に対して、県、市町村、関係機関が総力を挙げて取り組むことが不可欠である。 (5) すべての障がいがある人は、言語(手話等)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得または利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られなければならない。 (6) 障がいがある人が家庭や施設などの身近な環境の中で性に関する情報を得ることや経験をすることをしばしば不当に制限されたり、更には、障がいを理由とした人工妊娠中絶や不妊手術が合法化された時代がある等、今なお性に関する場面から排除されている現状を打開し、全ての県民が多様な性を持ち、互いに性的な主体として認めあい、自らの選択に従って自分らしく生きていく権利を有することが尊重されなければならない。 (7) 災害発生時に最も被害を受けることになるのは、障がいがある人やその家族であり、こうした被害を最小限度にとどめるためには、災害が生じた際に必要とされる援護の内容を具体的に特定したうえで、非災害時において、その仕組みづくりを継続的に行う必要があるところ、このような取り組みの強化は、すべての大分県民にとって、災害時の被害が最小限度にとどまる方策に直結するものである。 第4条 県の責務 (1) 県は、本条例の目的を達成するために、前項に定める基本理念にのっとり、障がいがある人に対する差別の解消および障がいがある人の自立や社会参加の支援並びに安全の確保等のための施策を総合的かつ継続的に実施する責務を有する。 (2) 県は、前項の責務を実施するにあたって、次の各号に定める事項に留意しなければならない。 一 「社会モデル」の普及定着のため、啓発、広報、研修の実施に努めること 二 公共的施設の整備をはじめ、障がいがある人に関連する施策の実施にあたっては、必ず障がいがある人の意見の聴取に努めること 三 障がいがある人からの相談、助言、あっせんの申立を受け、障がいがある人に対する差別、権利侵害を解決するための機関を設置すること 四 障がいがある人に対する災害等の緊急事態における安全を確保するために、東日本大震災や大分県豪雨をはじめとするこれまでの被災地での教訓をもとに、災害時の支援のあり方、災害時を見越した日常の取り組みの構築、および県、市町村、防災関連機関等と連携、協働できるよう基本計画の策定に取り組むこと 五 本条例に定める条項の確実な実現を図るために、その達成状況を確認し、実現に向けての課題を検討するための、障がいがある人の参加する機関を設置すること (3) 県は、本条例の目的を達成するために、市町村に対し、障がいがある人に対する差別の解消、障がいがある人の自立と社会参加の促進のために、その地域の特性に応じた施策を実施するために必要とされる情報の提供、技術的な助言その他の必要な措置を取る等して、市町村格差の是正に努めなければならない。 第5条 県民の責務  県民は、障がいのあるとないとにかかわらず、この条例の目的が実現し、障がいがある人に対する差別が解消され、障がいがある人の自立と社会参加が促進されることが、真の意味で、誰もが安心して豊かに暮らすことのできる大分県づくりにつながるということを理解し、そのために自らが果たすべき役割を自覚しつつ、この条例の目的の達成のために努めるものとする。 第6条 財政上の措置  知事は、本条例の目的を達成するために必要とされる施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるものとする。 第7条 差別の禁止・虐待の禁止  何人も障がいがある人に対し差別や虐待をしてはならない。  第2章 実体規定 第8条 相互理解 1,県民は、日常生活のあらゆる場面において多様な存在を認め、それによって特定の人々を排 除するのではなく、だれもがかけがえのない個人として尊厳をもって生活をすることができるように、それぞれの立場の理解につとめなければならない。 2,県は、障がいに関する社会モデルの普及に努めるとともに、県民の多様性に関する理解を促 進するための取り組み(県民に対する啓発活動、学校における障がいに関する教育活動等)を積極的に行わなければならない。 第9条 社会参加支援・生活環境 1,移動  県および事業者は、互いに連携し、障がいがある人の移動の円滑化を促進するために、以下のような設備や施設の設置改善および制度の整備を行うものとする。 (1)公共交通機関のユニバーサルデザイン化の推進。 (2)障がいがある人が優先的に利用できる駐車場の設置とその実質的な利用の確保。 (3)道路の段差の解消および点字ブロックの設置。 (4)点字案内および音声案内付の交通信号機の設置。 (5)障がいがある人のタクシーやバスその他の交通機関の利用に際しての補助制度の整備。 2,住居 (1)県および事業者は、お互いに連携し、障がいがある人が自ら選択した地域で暮らすことができるように、住居の確保のために必要な対策を行うものとする。 (2)県は、グループホーム、福祉ホーム等の居住の場の確保が親亡き後の問題の解決につながることに留意して、市町村と連携しつつそのための条件整備に努めなければならない。福祉サービス事業所は、グループホーム、福祉ホーム等の居住の場の設置や充実に努めなければならない。 3,社会参加  県および関連する事業者は、その他の機関と連携しつつ、障がいがある人の社会参加を促進するために次に掲げる取り組みを進めるものとする。 (1)障がいがある人が利用できるスポーツや文化活動のための施設の整備・充実。 (2)多機能トイレ・多目的トイレの設置。 (3)金融機関等における本人確認、ATMの利用、署名などに際しての障がいがある人に対する配慮の確保。 (4)障がいがある人の投票に際しての配慮の確保。 (5)資格試験等における場所や時間および出題の形式に関する配慮の確保。 (6)その他、必要な合理的配慮。 4,コミュニケーション支援の充実  県は、関係する機関、事業所と連携しつつ、障がいがある人の円滑なコミュニケーション支援を実現するために次に掲げる取り組みを進めるものとする。 (1)点字による行政文書等の作成およびそのために必要な人材育成の促進。 (2)手話通訳、要約筆記の充実およびそのための人材育成の促進。 (3)情報の簡略化、視覚化の促進。 (4)言語障がい等により言葉を話すのに困難がある人への配慮の促進。 (5)障がいがある人のコミュニケーション支援に関する研修等の実施。 (6)その他、必要な合理的配慮 第10条 日常生活支援 1.福祉サービス(日常生活支援)を受ける権利 (1)県および市町村は、障がいがある人が、地域社会において、自由で自立的な生活者として、孤立や隔離を強いられることなく生活することができるよう、障がいがある人およびその家族への十分な情報提供と社会資源の充実を図り、そのために必要かつ適切な施策を講じなければならない。 (2)障がいがある人が自らの希望や意思に基づいて社会生活を送れるよう支援するために、社会資源、制度の活用に際しては、障がいがある人の個別的事情にふさわしい支援方策が提案され、障がいがある人が自らの意思で選択できなくてはならない。  このため、県および市町村は、福祉サービスを始めとする制度や社会資源の有効な利用を促進するために必要な体制を整備し、障がいがある人およびその家族へ十分な情報提供を行うとともに、障がいがある人やその家族からの相談に適切に応じ、自立に向けた適切なケアプランの活用や手帳等の取得に資するための積極的な方策を講じ、相談支援事業所等の事業者や関係団体等への支援・助言を行うものとする。 (3)県および市町村は、障がいがある人が、生涯を通じて有効な支援を受けるために、児童期から成人期への移行や、介護保険制度の併用等に際して、障がい特性に応じた適切なサービスが利用でき、制度間の差異による不利益が生じないよう、特段の配慮をもって制度を運用しなくてはならない。 (4)県は、障がいがある人の権利を保障するために、市町村の実施する福祉サービス(地域生活支援事業を含む)が、地域のニーズに合致した質と量を保障するよう、情報の提供、支援、助言その他必要な措置を行うものとする。 (5)県は、障害支援区分認定に関する審査請求が申し立てられた場合には、積極的に情報開示を行う等、審査が公平かつ迅速に行われるよう障がいがある人の支援に努めなければならない。 (6)障がいがある人が必要な福祉サービスを利用するに当たって、費用負担による利用抑制等の不利益が発生しないよう、県は財政措置を含む必要な措置をとるものとする。   2.所得保障 (1)障害年金取得の支援を行う相談窓口の設置  障がいがある人やその代理人が障害年金の取得申請手続きを円滑に行うことができるよう、県および市町村は、障害福祉課窓口や更生相談所、および相談支援事業者等での相談を促進するために、情報提供や広報など必要な措置を講じなくてはならない。 (2)生活保護申請時の支援 一,障がいがある人の生活保護申請に対する審査・認定に当たって、市町村は、障がいのある人が特定の生活様式を強制されることなく、自由に居住の場所および形態を選択し、地域社会において自立して生活する権利を有することに配慮をしなければならない。 二,前項の場合において、市町村は、申請者が望む場合には、申請当事者の障がい状態および社会的環境の判定を行うことのできる専門機関に意見を聞く等の配慮を行うものとする。 3.親亡き後の問題  県は、障がいがある人や家族とともに、親亡き後の問題を解決するための総合的な施策を策定し、これを実施する措置をとらなければならない。 第11条 医療・保健 1,県は、障がいがある人およびその家族が、病気の際に抱えることになる大きな困難の解決のために、以下のような総合的な対策を講じなければならない。 (1)様々な障がいおよび障がいによって生じる様々な困難の周知とその改善のために、医療機関と連携して医療従事者に対する研修等の機会を設けること。 (2)障がいがある人およびその家族の急病等、緊急時に対応できる医療体制を整備するとともに、安心して医療が受けられるための支援を整えること。 (3)障がいがある人およびその家族が医療を受ける際に生じる様々な困難、すなわち通院困難、コミュニケーション困難、待ち時間の対応、診療拒否、入院時のヘルパー派遣等に対して、適切な対策を講じること。県は、こうした対策を具体化するために医療関係者と障がいがある人および家族等による協議機関を設置することとする。 (4)障がいがある人およびその家族が医療を受ける際に、経済的困難を緩和するための制度を利用しやすく整備し、適切に情報提供すること。その際、市町村格差が生じないよう配慮するものとする。 (5)障がいがある人の人権およびその家族の不安を踏まえて、訪問医療の実施や福祉との連携、受け入れ場所づくり等、地域における保健・医療体制の充実を図ること。そのために、地域保健医療計画に障がい者医療を組み込み、そのニーズ把握や計画策定にあたっては、障がいがある人およびその家族の声を重視する。 (6)「障害者手帳」の認定や「障害支援区分」の判定が適正になされるよう対策を講じること。 (7)難病等の専門医が少ない病気について、地域で適切な医療が受けられるよう、研修等の対策を講じること。 2,医療機関および医療従事者は、障がいがある人およびその家族の受診や入院等における困難を理解し、その負担軽減のために適切な配慮を行わなければならない。 3,県民は、地域で暮らす障がいがある人およびその家族が通院、入院、退院等するにあたって、その困難を理解し、支え合える地域づくりに努めなければならない。 第12条 教育・保育 1,県は、こどものころから、生涯にわたって、違いを認め合い、支えあって生きていく人間関係を育てるため、学校教育や社会教育の中で、差別の禁止や合理的配慮などについての課題を設定し、積極的に取り組んでいかなければならない。また、どこにいても、その子の特性に合った教育を受けられるように配慮しなければならない。 2,県は、こうした基本理念に基づいて以下のような施策を行うものとする。 (1)入園、入学にあたって本人または保護者の希望に基づく、園、学校の選択。 (2)障がいがある子の特性にあった教育を充実すること。そのため、必要な教師および支援スタッフを配置しなければならない。 (3)学校生活にあたって、本人が充実した生活が送られるよう、合理的、社会的配慮をすること。問題が生じた場合のために、安心して相談できる体制を整備すること。 (4)様々な障がいを理解するため、全教職員が研修する機会を多く設け、共通の理解のもとに、適切な対応ができるようにすること。 (5)義務教育において、障がいがある人およびその家族を講師とする教育をはじめとした様々な障がいについての学習の機会を設けること。 (6)障がいのあるこどもに対する支援は、医療・福祉などの専門的な支援を含む地域全体の連携および協力の下で行うこと。その際、卒業後も視野に入れた支援を築くこと。 (7)地域の生涯学習の中で、障がいについての理解を深めていくよう取り組みを行うこと。 第13条 療育  心身に障がいのある児童が健やかに育成されるためには、その障がいと特性を早期に把握し、特性に応じた療育を早期に提供するとともに、家族に対する支援を行うことが重要であることから、県や関係機関は以下のような取り組みを推進するものとする。 (1)乳幼児健診や5歳児健診の受診率および検査や診断の精度の向上を図ること。 (2)障がいの疑いがある児童の発達や療育等についての相談支援体制を充実すること。 (3)障がいの疑いがある児童の特性に合わせた支援ができる各種療育機関や日常生活支援機関が、身近な地域に設置されるよう努めること。 (4)市町村や専門療育機関と保育所、幼稚園や教育機関との間において、情報の共有をはじめとする連携の強化を図ること。 第14条 性・恋愛・結婚・妊娠・出産・子育て 1,全ての県民は、多様な性をもつ主体としてお互いに尊重されなければならない。  障がいがある人が性的な主体として、自らの性や生殖に関して自由をもっていることが尊重され、障がいがある人自身が望む場合に、恋愛、結婚、妊娠、出産、子育てを実現できる体制が整備されなければならない。 2,前項を実現するために、県は障がいがある人の性に関する積極的な啓発活動や福祉サービス事業者、教育機関等への財政的な援助を含む必要な支援策を講じるものとする。 3,特別支援学校および特別支援学級等の教育機関や福祉サービス事業所、その他の障がいがある人の教育や療育に関わる者は、障がいがある人の特性や発達段階に配慮しながら積極的に性教育を行うものとする。その際、必要に応じて障がいがある人の家庭や本人に関わる者に対して情報提供等を行わなければならない。 4,福祉サービス事業所等の障がいがある人にサービスを提供する者は、障がいがある人を性的な主体としてとらえ、居室におけるプライバシーの確保等、必要な配慮および支援をしなければならない。またサービス利用者の障がいを理由に、恋愛、結婚、妊娠、出産などを妨げたり、それらを理由としてサービスの提供を拒む等の不利益な扱いをしたりしてはならない。 第15条 就労 1、就労は、すべての人にとって収入を確保し、社会に参加し、自己を成長させ、自己実現する重要な機会であり、県は、就労を希望する障がいがある人に対して就労の場を保障するために、以下に述べるような取り組みを行うものとする。 (1)障がいがある人の意思を尊重し、就労を希望する人に対して、就業・生活支援センターや就労支援事業所および相談支援センターの機能および連携の強化、ジョブコーチの配置、モデル事業の実施等その人に応じた適切な支援を継続的に行う体制を整えること。 (2)障がいがある人の障がいの特性にあった就労を進めるために、庁内および関係機関との連携を強化し、広報や啓発、支援方法・支援機関等の情報共有化を進め、企業等事業所の理解と協力を広げるとともに、地域におけるネット―ワークづくりを支援すること。 (3)事業所等において障がいがある人の働く場を確保するための施策を拡充するとともに、庁内において障がいがある人に適した業務を障がいがある人の仕事として提供すること。 2,事業者は、障がいがある人が働くことが、障がいがある人本人にとっても、社会にとっても不可欠であり、かつ事業所にとっても有益であることを理解し、障がい者の受け入れを進めなければならない。  また、事業者は、障がいがある人が働きやすい環境はだれもが働きやすい環境であることを踏まえて、職場環境を見直し、障がいがある人を雇用する態勢を整備するよう務めなければならない。そのために県は、事業者に対してバリアフリー化、従業員の理解促進、支援担当の配置、企業に対する支援施策等の必要な支援を行うものとする。 3,県民は、障がいがある人が就労することの意義を理解し、通勤や生活への支援を含め、地域で日常的な支援、見守りを行うものとする。 第16条 地域福祉 大分県が、一人ひとりの個人の尊厳を尊重しながら、どんな時にもお互いに助け合い支え合う福祉文化(県民性)を持つ社会となるために、次のような取り組みを推進する。 (1)一人ひとりの人権を尊重することを基本理念として、様々な権利侵害に対して地域全体で見守り、権利を擁護する体制づくりを進めること。 (2)障がいがある人もない人も、県民誰もが地域社会の一員として尊重される共生社会を実現するため、お互いの差異や多様性を認め合い多様な自己実現が図られるよう、連帯と支え合う仕組みを構築すること。 (3)地域住民の暮らしやすさを実現するために、従来の福祉制度だけでは解決が困難な福祉課題に対し、行政は公的制度の柔軟な対応を図り、地域社会にある様々な団体、組織、機関や個人が支え合いの担い手として協働して問題や課題の解決に取り組むこと。 第17条 更生への支援  県は、障がいがある人が障がいを原因として、犯罪を犯した場合に、その更生のために必要な施策を講じなければならない。 第18条 防災 1,県、市町村および地域住民は、災害時に支援を必要とする障がいがある人等(以下「災害時要援護者」という。)に対し、災害時には以下のような支援を行うものとする。 (1)報道機関や近隣住民等と協力して、災害情報を災害時要援護者に迅速に届けること。 (2)災害時には、一義的に近隣住民が災害時要援護者の避難誘導に努めること (3)避難所の運営に当たっては、災害時要援護者に対し特段の配慮を行うこと。 (4)その他災害時要援護者が必要とする支援を行うこと。 2,県および市町村等は、前条各号を実現するため、以下のような準備を行う。 (1)市町村(消防を含む)、自治会役員、民生・児童委員等は、災害時要援護者の情報を共有する。また、災害時には災害時要援護者情報を開示できるよう備える。 (2)災害時要援護者およびその家族は、名簿に登録するなど情報を提供しておくよう努める。 (3)市町村は、災害時要援護者のニーズに対応できる福祉避難所を準備しその場所を周知するとともに、支援にあたる専門家等を福祉避難所に配置できる体制を整備する。 (4)県および市町村は、毎年、居住地域単位で災害時要援護者を含む避難訓練を実施するなど、地域住民と協力して災害時要援護者を支援できる体制を整備する。 (5)県および市町村は、医療機関等と協力して人工呼吸器、人工透析器や薬品などが災害時にも不足することの無いように備えるとともに、それらを必要とする障がいのある人に届ける仕組みを構築する。  第3章 問題解決・推進手段 第19条 障害がある人の権利委員会 1,この条例に定める障がいがある人の尊厳と権利を擁護するとともに、障がいを理由とする差別および障がいがある人に対する虐待をなくすために必要な措置を行うため、県に障がいがある人の権利委員会(以下、「権利委員会」という)を置く。 2,障がいがある人は、自分の権利を侵害されたり、障がいを理由とする差別もしくは虐待を受けたときには、権利委員会に対し、問題解決のための措置を求めて、申立てをすることができる。 3,権利委員会は、申立てを受けあるいは職権で、差別ないし虐待の疑いのある事例について、事実調査、説明・調整、関係機関への通告、助言・あっせんおよび知事の勧告を求めること等を行うことができるものとする。 4,権利委員会は、障がい当事者(本人または代弁者、家族)、支援者および学識経験者によって構成されるものとする。 第20条 地域相談員制度 1,県は、地域相談員を設置し、障がいがある人や家族が障がいを理由とする差別や虐待を受けたとの訴えや日常生活全般に関する相談を、その居住する地域において行うことができるよう努めるものとする。 2,地域相談員は、公募することとし、権利委員会の定める一定の研修を受けたものを委嘱することとする。 3,地域相談員は、差別・虐待に関する相談を受けた場合には、権利委員会に報告し、その助言を受けながら解決にあたるものとする。 第21条 障がい者権利保障推進会議(推進会議) 1,この条例の目的である障がいの有無にかかわらず誰もがかけがえのない人間として尊重される社会を構築するとともに、広く県民が障がいがある人の特性や困難を理解し、障がいがある人に対する差別と虐待を解消することを実現するために、県は障がいがある人およびその家族、支援を行う者、障がいがある人に関する施策と人権擁護に関し専門的知識を有する者からなる会議(以下、「推進会議」という)を組織する。 2,推進会議は、知事の諮問機関として常設し、その部会として、分野別専門部会を置くことができる。 3,推進会議は、県内の障がい者の権利促進および差別防止全般に関する情報把握・分析を行い、政策立案・提言を行うとともに、この条例の定める各事項の達成状況を年度ごとに検証して知事に報告するものとする。 以上